バックラットプルとフロントラットプル、どっちがいい?広背筋を鍛えるための正しい選び方

バックラットプルとフロントラットプル、どっちがいい?広背筋を鍛えるための正しい選び方

ジムでラットプルダウンをしている方を見ていると、たまに「バックラットプル」のフォームで引いている方を見かけます。

バーを首の後ろに引き下ろす、いわゆる「ビハインド・ネック・ラットプルダウン」です。

気になって理由を尋ねてみると、

「SNSで良いって紹介していたから」

「こっちの方が背中に効いている感じがする」

という答えが返ってくることがあります。

そこで「実際にどこに効いている感覚がありますか?」と聞いて、場所を指してもらうと、首から肩にかけてを指す方もいます。

一方、その方が本来「鍛えたい」と考えていたのは広背筋。

つまり、「効いていると感じる場所」と「鍛えたい場所」がズレている可能性があります。

もちろん、バックラットプルを行ったからといって、僧帽筋にしか効かないわけではありません。広背筋をはじめ、大円筋、僧帽筋、上腕二頭筋など、複数の筋肉が協力して動作を行います。

では、バックラットプルは実際にどこに効くのでしょうか?

そして、なぜ肩や首に力が入りやすいのでしょうか?

今回は、医学・運動学の視点も交えながら、バックラットプルの特徴と、安全に背中を鍛えるための考え方を解説します。

バックラットプルとは?

ラットプルダウンは、上から吊り下げられたバーを下方向へ引き、背中の筋肉を鍛えるトレーニングです。

主に働くのは広背筋。背中の広がりをつくるうえで重要な筋肉です。

一般的な「フロントラットプルダウン」では、バーを頭の前から胸の上部に向かって引きます。

一方、バックラットプルでは、バーを首の後ろに向かって引き下ろします。

一見すると似たような種目ですが、肩関節や肩甲骨に求められる動きは異なります。

バックラットプルは広背筋に効かない?

これは誤解しやすいポイントです。

バックラットプルでも広背筋はしっかり働きます。

実際、2009年の研究では、フロント、バック、Vバーの3種類のラットプルダウンを比較したところ、広背筋の筋活動には有意な差がありませんでした。つまり、「バックラットプルのほうが広背筋に圧倒的に効く」とまでは言えません。

さらに2024年に発表された高密度筋電図を用いた研究では、フロントとバックのラットプルダウンで筋活動のパターンを比較しています。

その研究では、バーを下ろす局面ではフロントラットプルのほうが広背筋の興奮が大きく、一方でバーを戻す局面ではバックラットプルのほうが広背筋の興奮が大きいという結果でした。

つまり、「バックラットプルのほうが常に広背筋に効く」という単純な話ではありません。

ここは、SNSなどで見かける「このフォームのほうが絶対に効く」という情報とは少し違うところです。

「効いている感覚」と「筋肉の活動」は同じではない

筋トレでは、「どこに効いているか」という感覚を大切にする方も多いと思います。

もちろん、その感覚はフォームを確認するうえで役立ちます。

しかし、

「強く感じる=その筋肉を最も効果的に鍛えられている」

とは限りません。

例えば、ラットプルダウンで首や肩がパンパンになったとしても、それだけで「僧帽筋を効果的に鍛えられた」と判断することはできません。

反対に、広背筋は毎回強烈なパンプ感が出るとは限りません。

そのため、

「どこが疲れたか?」

だけではなく、

「どの筋肉を狙い、どのような動作をしているのか?」

という視点が重要になります。

なぜ首や肩に力が入りやすいのか?

バックラットプルでは、バーを首の後ろまで引くため、肩関節に大きな可動域が求められます。

特に、腕を横に開いた状態から肩を外旋させた姿勢で、さらにバーを後方へ引く必要があります。

この姿勢を無理なく行うためには、肩関節だけでなく、肩甲骨や胸椎を含めた上半身全体の動きが重要です。

ところが、肩の可動域が不足していたり、肩甲骨をうまくコントロールできなかったりすると、身体は別の場所を使って動作を補おうとします。

その一つが「肩をすくめる」という代償動作です。

すると、首から肩にかけて力が入りやすくなり、「背中よりも首や肩が疲れる」という状態につながることがあります。

ただし、ここで注意したいのは、僧帽筋上部が働くこと自体は悪いことではないという点です。

僧帽筋上部も肩甲骨の動きに関わる重要な筋肉です。

問題なのは、広背筋を鍛えたいのに、フォームが崩れて首や肩に過剰な力が入り、目的とする動作ができていないケースです。

なぜ肩への負担に注意が必要なのか?

バックラットプルが「肩に悪い」と言われる最大の理由は、首の後ろにバーを引くために、肩関節に比較的大きな可動域が必要になることです。

特に、肩を外旋させながら腕を外側へ開いた位置は、肩にとって要求の大きいポジションです。

肩関節の可動域が十分でない人が、重量を使って無理にその位置までバーを下げれば、肩周辺の組織にストレスがかかる可能性があります。

ただし、ここは医学的にも慎重に考える必要があります。

「バックラットプルをすると肩を必ず痛める」ということが証明されているわけではありません。

現在の研究では、実際の長期的な肩のケガ発生率をフロントとバックで直接比較したデータは十分ではありません。

そのため、「危険な種目」と断定するよりも、肩関節に要求される可動域が大きく、身体の状態によっては注意が必要な種目と考えるのが適切です。

広背筋を鍛えるなら、私はフロントラットをすすめます

では、なぜ私が初心者の方にフロントラットプルをすすめるのでしょうか?

理由は、広背筋を鍛えるという目的に対して、バックラットプルをあえて選択する必要性が低いからです。

研究では、バックラットプルが広背筋に一貫して優れているという結果は確認されていません。

一方、フロントラットプルでも広背筋を十分に使うことができます。2026年のレビューでも、ラットプルダウンではバーを身体の前に引く方法が、広背筋の筋電図活動を高める条件として比較的一貫して支持されています。ただし、これは短時間の筋電図研究に基づくもので、長期的な筋肥大を直接証明するものではありません。

だからこそ私は、

「同じ広背筋を狙えるなら、より無理の少ない方法から始める」

という考え方をしています。

広背筋を狙うためのフォーム5ポイント

フロントラットプルを行う場合は、次のポイントを意識してみてください。

① 重量を欲張らない

重すぎる重量では、反動を使ったり、肩をすくめたりしやすくなります。

まずは、フォームを崩さずコントロールできる重量を選びましょう。

② 肩をすくめない

バーを引くときに肩が耳に近づいてしまう場合は、重量を下げてみましょう。

③ 「バー」より「肘」を意識する

バーを無理に胸へ引きつけるのではなく、肘を脇腹方向へ下ろすイメージを持つと、広背筋を使う感覚をつかみやすくなります。

実際、初心者でも適切な技術指導によって広背筋の筋活動を高め、上腕二頭筋の活動を抑えられた研究があります。

④ 腰を反りすぎない

「胸を張る」と「腰を反る」は別です。

身体を大きく後ろへ倒して反動を使うのではなく、体幹を安定させたまま動作しましょう。

⑤ 無理に深く引かない

「バーを胸まで下げること」そのものが目的ではありません。

肩や肩甲骨が無理なく動く範囲で、狙った筋肉をコントロールできることを優先しましょう。

バックラットプルは絶対にNGなのか?

ここまで読むと、

「じゃあバックラットプルはやらないほうがいいの?」

と思うかもしれません。

私は、全員が絶対にやってはいけない種目とは考えていません。

肩関節の可動域が十分にあり、痛みがなく、フォームを自分でコントロールできるのであれば、行える人もいます。

ただし、初心者の方や肩に不安がある方、バックラットプルで首や肩に強い違和感が出る方であれば、無理に選択する必要はありません。

広背筋を鍛えるという目的なら、まずはフロントラットプルで基本的な動作を身につけるほうが、私は指導しやすいと考えています。

まとめ

バックラットプルは、広背筋を含む背中の筋肉を鍛えられるトレーニングです。

しかし、研究を見る限り、**「バックラットプルのほうが広背筋に効く」と言える明確な根拠はありません。**むしろ、研究によってはフロントラットプルのほうが、バーを引く局面で広背筋の筋活動が高くなっています。

また、バックラットプルは肩関節に大きな可動域を要求するため、身体の状態によっては肩や首に負担がかかる可能性があります。

だからこそ、

「SNSで紹介されていたから」

「このほうが効いている気がするから」

という理由だけで種目を選ぶのではなく、

「自分は何を鍛えたいのか?」

「その動作を無理なく行えるのか?」

を考えることが大切です。

広背筋を鍛えたいのであれば、まずはフロントラットプルで、肩をすくめず、肘を脇腹方向へ引く感覚を身につけてみてください。

筋トレは、重い重量を扱うことだけが目的ではありません。

自分の身体に合った種目を選び、正しい動作を繰り返し、長く続けること。

それが、結果的に安全で効果的なトレーニングにつながります。

※本記事は、医学・運動学に関する研究を参考にした一般的な情報と、トレーナーとしての見解をまとめたものです。筋電図による筋活動の大きさは、そのまま長期的な筋肥大や筋力向上を意味するものではありません。肩や首に痛み、しびれ、違和感がある場合は無理に運動を続けず、必要に応じて医師・理学療法士などの医療専門家にご相談ください。